しんしんと降る雪を眺め露天湯でいただく“幻の銘酒”、酒をまろやかにする鎚起銅器 (ついきどうき)の酒器、
仕込み時期にあたる冬場の酒蔵見学など、 新潟には本場だからこそ出合える日本酒の魅力がたくさんあります!
機内誌編集部スタッフが1泊2日でゆく冬の酒どころ、お酒好きの両親への旅のプレゼントにももってこいの、
本当においしい日本酒を知る旅をご紹介します。
1日目
福岡空港発FDA505便 >> 新潟空港着 >> 「越後長野温泉・嵐渓荘」にチェックイン
2日目
源泉粥の朝ご飯 >> 「玉川堂」でお気に入りの酒器探し >> 新潟一のご利益スポット「彌彦神社」 >> 昼ご飯は、新潟名物「わっぱ飯」 >> 「宝山酒造」で酒蔵見学 >> 新潟空港発FDA506便 >> 福岡空港着
福岡空港から新潟までは、約1時間40分。
機内サービスでいただくおいしいコーヒーなど飲んでいると、いつの間にか眼下に広がるのは日本海。
その青々とした海原は、荒波で育まれた海の幸の宝庫なんだと一人ほくそ笑みます。
きっと日本酒の名産地だけに、その土地ならではの旨い酒があり、その一杯にぴったりと合う肴はもちろん、酒の味わいまでも引き立てるような酒器もあるに違いない、とまだ見ぬ新潟の地に思いを馳せるひととき。
やがて、新潟の街を流れる信濃川が見えてくると
いよいよ本物の日本酒の魅力を探す旅のスタートです。
空港に降り立ったら、まずはリムジンバスでJR新潟駅へ。信越本線長岡方面行き普通列車に乗り、JR東三条駅を目指します。東三条駅からは予約送迎してくれるデマンドバスで約45分。「越後長野温泉・嵐渓荘」へと向かいます。料金は一人600円。
宿の予約時に伝えると手配してくれるので安心です。
三条市デマンド交通「ひめさゆり」問い合わせ TEL/0256-34-5511(三条市市民部環境課 防犯・交通係) |
JR東三条駅から下田郷までは約40分のドライブ。
棚田が続く下田村一帯は、日本の原風景が今に残る美しい山村です。五十嵐川には晩秋になると白鳥が飛来し、冬の見どころの一つとなります。杉木立にはムササビも生息しており、運が良ければ出合えるかもしれないと、なんだか子どもみたいにわくわく!
やがて車窓から見える景色がだんだんと深い雪景色に変わり、木々や屋根にこんもりと積もる雪は、さすが雪国の風情たっぷり。そんな白銀の世界に本日の宿、「嵐渓荘」が佇んでいました。
日が暮れて薄暗い辺りを照らすのは、宿から漏れる暖かな明かりのみ。
幻想的で趣ある佇まいに、今夜は素敵な夜が過ごせそう!なんて心を躍らせながら玄関に向かうと「まぁまぁ、寒い中よくいらっしゃいました」と番頭さんが温かい笑顔で迎えてくれました。
大正時代の料亭を移築した館内には、当時の面影が随所に残り、客室の窓の向こうには、明かりに照らされ青白く浮かび上がる渓谷美が広がっていました。
このゆるりとした空間で雪景色を眺めながら、お待ちかねの夕食をいただきます。
「冬の美味厳選」コースは、この時季だけにしかお目にかかれない「自然薯(じねんじょ)のいそべ揚げ」や
名物の「ぜんまいの一本煮」などの山里料理に加え、お肉や海の幸も盛り込んだ冬季限定メニュー。
中でも自然薯は地元のベテランの方が熟練の技を使い、手堀りで採った天然もの!
アツアツ、サクサクのいそべ揚げをポン酢にくぐらせ頬張ると、中からじゅんわり溢れるとろとろの自然薯。
その粘りの強さはまさに天然ものの証です。
素材の旨みをそのままに、一品一品丁寧に調理された料理をいただくと、
下田村の大自然が育んだ生命力が丸ごと詰まっているような力強さを感じました。
夕食後少し休憩したら、渓流の近くにある無料の貸切露天風呂「山の湯」へ。
この「山の湯」だけのお楽しみが「露天湯で一杯セット」(1,575円)。フロントで地酒の銘柄を「五十嵐川」「越乃寒梅」の2種類から選び、冷酒の入った竹筒を受取ったら、いざ湯小屋へと向かいます。
そこは、真っ白な雪景色を贅沢に一人占めできる雪見風呂。
聞こえて来るのは渓流のせせらぎだけです。
肩までどっぷり浸かると、思わずため息。寒さにこわばっていた体の力が抜け、旅の疲れもお湯に溶けていくよう。肌にしっとり、まとわりつくような湯感の温泉は、山では珍しい塩の湯!湯上り後はお肌がスベスベに若返ると評判です。
傍らでぷかぷかと湯船に浮かぶのは、竹の酒器に入った「吟醸・五十嵐川」。ご当地三条市の福顔酒造が醸造した地酒をくいっと一口飲むと、「くぅーっ!」
さらりと水のように飲みやすく、その軽やかでキレの良い旨みに思わず感動の声が漏れてしまいます。そして、ぽかぽか温まった体に流れ込む冷酒の心地良さ!これぞ露天湯で飲む醍醐味です。
しんしんと降る雪を眺めながら飲む一杯の酒が、温かい湯に浸かる至福の気分をさらに盛り上げてくれます。
今まで体験したことのない日本酒のおいしさを風情満点の雪見風呂で味わうことができました。
越後長野温泉 嵐渓荘 住所/新潟県三条市長野1450 TEL/0256-47-2211 |
およそ3000坪の広い庭園を散歩したり、
朝風呂に入ったりと
「嵐渓荘」では朝の楽しみ方もさまざま。
朝ご飯は温泉水で炊かれた、名物の「温泉粥」です。
昆布茶のような塩味は食塩泉である温泉そのもの味。
源泉のミネラルをたっぷり含んでいるから
体にもいいのだとか。
温泉のパワーを吸収して2日目も元気に出発です!
宿を出たら、デマンドバスで今度はJR燕三条駅へ。
駅前でレンタカーを借り、鎚起銅器(ついきどうき)の老舗「玉川堂」に向かいます。
日本酒をよりおいしく深く味わうために器にもこだわりたい。そう思って訪れたのは燕市にある「玉川堂」。
注いだ酒がまろやかな味になるという評判を聞き、鎚起銅器(ついきどうき)の酒器を探しにやってきました。
鎚起銅器とは、金鎚や木槌などで板状の銅板を打ち起こして作る器のこと。
太陽の光を存分に浴びた稲穂のような褐色や控えめで上品な桃色など、世界でも稀有な銅の彩色技術は評判が高く、鎚起銅器は国の無形文化財に指定されています。なんと、人間国宝の職人さんもいらっしゃいます。
職人さんが丹精込めて作った器は、使えば使うほどに光沢が増し、味のある色に変化していくのだそう。だからこそ日々の暮らしの中で自分だけの風合いに育ててゆく楽しみがあり、それもまた生活用具としての鎚起銅器の魅力なのです。
「銅イオンの働きで酒がまろやかになるんです。また、日本酒はほんの少しの温度差で味わいが変わるものです。銅製品は熱伝導がいいので好みの温度のまま、酒をお楽しみいただけるんですよ」と店員さんが教えてくれました。
200年以上もの伝統の手技から生まれた銅の酒器で、
一番好きな酒の飲み方を探るのも、左党の一興。
酒通を気取って、気に入った薄ピンク色の酒器をゲットしました。
登録有形文化財に指定される築100年を超える門には、風雪から建物を守ってきた雁木(がんき)が当時のままの風情を構えていました。玄関から一歩足を踏み入れると、底冷えのするような土間の空間に、カーン、カーンと銅板を叩く音が響きわたります。奥の鍛金場をそっとのぞいてみると、そこには真剣な眼差しの職人さんが15人ほどで作業を行っていました。鎚起銅器に触れてみると、ひと振りひと振り鎚で叩かれた無数の跡が柔らかな文様となって、独特の趣を醸し出しています。これが一枚の銅板だったのか・・・!と匠の技に感服です。
日本一の神社数を誇る新潟には、なんと県内に4500社以上もの神社があるというから驚き!
その中でも、特に人々から親しまれているのが、“おやひこさま”の愛称を持つ「彌彦神社」です。
ならば“おやひこさま”のパワーをいただこうと、車を走らせました。
木立に包まれた朱の鳥居をくぐると、弥彦山から注ぐ清流・御手洗川が流れており、その荘厳な趣に心が洗われていくよう。境内の鹿苑では10数頭の鹿たちが、訪れる参拝客を迎えてくれます。
参拝は「2礼4拍手1礼」で行うのが彌彦流。
地元のボランティアガイドの方と一緒に境内を散策すると、万葉集に詠まれるほどの古い歴史や創建当時から受け継がれてきた伝統、境内に根付く神々の伝説などを知ることができます。
新潟なまりのガイドが、また楽しい!
ボランティアガイドは要予約、無料でお願いできるコースもありますよ。
また、拝殿の後ろにそびえる霊峰・弥彦山は、山麓から9合目までロープウェーが運行しており、越後平野を一望しながらのんびりと空中散歩を楽しめます。
彌彦神社から乗り場までは無料のシャトルバスであっという間なので、山全体を神域とする神聖なパワーに触れるひとときもおすすめです。
お昼ご飯は、「彌彦神社」から徒歩5分の
「割烹お食事 吉田屋」へ。
港から程近く、以前は鮮魚店だったことから、
店主こだわりの地魚料理が味わえると評判のお店です。
お目当ては「わっぱ飯」。
杉板を使った曲げ物の器“わっぱ”に旬の魚介類などを盛り合わせた新潟の郷土料理です。
「特製わっぱ飯膳」を注文すると、
錦糸卵の上にはきらきらと透き通るいくらがたっぷり!
箸を入れると錦糸卵の下にはさけが隠れていました。
プチプチ弾けるいくらと、しっとり軟らかなさけの身は産地ならではの鮮度で旨みたっぷり。
秋冬には刻みユズ、春夏には木の芽を添えて四季折々の味わいを楽しませてくれます。
杉の香りほのかに漂う新潟めしでお腹一杯に。
次は「彌彦神社」に御神酒を献上しているとガイドさんが教えてくれた酒蔵へ出発!
新潟の人々の心のふるさと「彌彦神社」に御神酒を献上する酒蔵は、創業明治18年。創業当時の白壁土蔵造りの蔵の中は、まさに時代をタイムスリップしたような古き良き異空間です。
杉玉の下がる玄関から足を踏み入れただけで、ふんわり立ち込める甘い香り。迎えてくれた女将さんの案内で、早速蔵見学へ。
築130年の古い歴史を持つ蔵では、「昔ながらの本来の味を伝えたい」というご主人のかたくなな思いとこだわりから今も機械に頼らず、昔ながらの道具と製法で酒造りが行われています。
人の背丈よりも大きいタンクの中では、発酵中の酒母がふつふつとまるで息をしているかのよう。ふと、天井から吊るされる袋を発見!女将さんに尋ねてみると、酒袋の中には仕込みが終わった大吟醸のもろみが入っていて、こうして原酒のしずくを落としているとのこと。「大吟醸ならではの手間暇を掛けた搾り方なんですよ。しずくが落ちる音もすてきでしょう」と女将さん。どちらかというと、したたり落ちるお酒の味の方が気になります・・・!そんな気持ちを察してくださったのか、「それではそろそろ味見していただきましょうね」と、奥のお座敷に案内されました。
そこでは日本庭園を愛でながら、心ゆくまで日本酒を味わうお楽しみが待っていました。
まずいただいたのは、純米酒「宝山」。飲んでみると柔らかな飲み口の中に、凝縮された米本来の旨み。日本酒には鮮度があり、一番おいしい瞬間を味わってほしいというご主人の思いが、その一杯から伝わってくるようなみずみずしい味わい。この鮮度こそ、蔵元でしか味わえない醍醐味だと教えてもらった気がします。
次にいただいたのは、大吟醸「宝山」。蔵の畑で育てた酒米「越淡麗」を丁寧に磨きあげて造った、まさに自慢の極上酒。フルーティーな香りを楽しみつつ、口に含むと穏やかな旨み。その後味はまるで淡雪がスッと溶けるような切れ味の良さ!「あぁ、おいしい・・・」思わず口福のため息。
酒造りの現場を見た後に味わうお酒は一段とおいしく感じられるから不思議です。
しみじみ味わっていると、「その他のお酒も好きなだけ試飲してくださいね」と女将さん。なんとも太っ腹なお言葉に甘えて、いろいろ試飲させていただきました。
「ドライバーさんにはこれ」と出されたのは、甘酒。砂糖や甘味料は一切入っていないのに甘い!米の自然な甘みと旨みを引き出すため、なんと6時間もの間、米麹をじっくりと手で混ぜて造るそうです。昔懐かしい味の甘酒はノンアルコールなのでドライバー担当の方は、これでガマンガマン。
そして、「毎日これを化粧水代わりに使っているんですよ」
と女将さんが教えてくれたのは、純米酒のボトルシリーズ。
日本酒を化粧水に!?最初は驚きましたが、女将さんのつやつやの肌を見ると納得です。飲んでおいしく美容にも効果がある。また一つ日本酒の魅力を知ることができました。
帰りはちょっと遠回りして「越後七浦シーサイドライン」と呼ばれる、海沿いの道路を走ります。荒波が削った奇岩が続く日本海に雪が舞う風景はどこかノスタルジックなイメージ。
厳しい寒さの中で培われてきた伝統や、文化を担う皆さんのたくさんの温かさに触れた1泊2日の旅の中で、あらためて日本酒の良さを知ることができました。
酒呑みでなくとも心の芯から温まるような新潟の魅力を学んだ気がします。
七浦シーサイドライン |
>> 「岩室温泉観光協会」ホームページ
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