「桜がなくても花見気分。
トゲクリガニで春を愛でる」

三方を海に囲まれた青森は、ホタテやヒラメ、イカ、シジミを筆頭格に、多くの魚介類が全国トップクラスの水揚げを誇る魚処。その青森に春の訪れを告げる旬が、陸奥湾で捕れるトゲクリガニだ。現地ではサクラガニとも呼ばれ、お花見に欠かせない風物詩ともなっている。

毛ガニより小ぶりなこともあり安価なのだが、こいつの甘く繊細な身と濃厚なカニミソが、とてもいい。春から初夏にかけ青森を訪れる際は、食事を予約する店に「トゲクリガニを食べたい」とリクエストしておくといい。さすれば到着してすぐに食べられるよう万事整えておいてくれるはずだ。

今回訪れたのは青森のメインストリートとも言うべき本町通りの少し先にある『酒肴わいや』。仕事帰りのローカルが多い庶民的な店で、カウンターと小上がり席を合わせて10数席ほど。店に入ると、食べやすいよう丁寧な手仕事が施されたトゲクリガニが一匹丸ごと現れた。

口にすると磯の風味がザッバーンッと押し寄せ、程よい塩気で次々とビールをさらっていく。これさえあれば、桜がなくても花見気分になるから不思議なのである。